はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

ヒナ田舎へ行く ブログトップ
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ヒナ田舎へ行く 100 [ヒナ田舎へ行く]

午前中はいろいろあり(盗み聞きした件)、おおむねごきげんだったヒナだが、

「手紙?来てませんよ」

このダンの一言で、機嫌はまっさかさまに降下していった。

「ロシタはこなかったの?」

ショックを隠し切れない――もともと隠す気もないが――ヒナは、へなへなとその場に座り込んだ。

ダンはてきぱきとヒナから宿題の束をひったくり、テーブルに揃えて置いた。「そのようですね。キッチンに顔を出していないのでわかりませんけど」なんとも素っ気ない物言い。

ここでヒナは、ダンが不機嫌なのに気付いた。

ヒナは狼狽えた。二年ほど一緒にいて、不機嫌なダンは初めてだったからだ。

「え、えっと、じゃあ、ジュスは来ないよね……」

「わかりません」

わからないということは、可能性は残されているということ。ヒナは期待を込めて言った。

「お昼食べたら、寝ないで待ってみる」

ということで、ちょっとばかし不機嫌な状態で、ヒナは昼食の席に着いた。もちろんダンは不機嫌。朝から不機嫌なブルーノもさらに不機嫌。スペンサーはいつも通りで、カイルはかなりごきげんだった。

ヒナは朝食の残りの堅い丸パンをスープにびしゃびしゃ浸けながら、向かいに座るブルーノを観察した。味方になったのに、まだ不機嫌なのはどうしてなのだろう。雨はいまだ降っているものの、憂鬱になるほどでもないのに。

気まずい空気に知らぬふりを決め込んでいるスペンサーが、リラックスした様子で誰ともなしに訊ねた。

「町に行くが、何かいるものがあるか?」茹で鶏を薄くスライスしたものをパンに挟み込みかぶりつく。

「別に」とブルーノ。先ほどからパンをちぎってスープにどんどん浮かべている。

「僕は他にはないよ」カイルはサラダを突っつきながら、上機嫌で答えた。

ヒナは特に何も思い付かなかったので黙っていた。

「僕も一緒に行ってもいいですか?」ダンがふと思い付いたように言った。

「雨が降っているぞ」とスペンサー。不意の申し出に眉を顰める。

「大丈夫です。雨具は持っていますから」誰にも外出を止めることなど出来ないぞとばかりに、ダンは決然と言った。

やっとのことでここに居残った割には大胆な発言だ。

「そうか。まぁ、小雨だから大丈夫だろう」

ヒナの目にはスペンサーが喜んでいるように見えた。ブルーノの味方としては、邪魔をしたいところなのだが、なにせダンは不機嫌。このまま行かせるのがヒナにとって安全だと判断して、口を堅く閉じたままにしておいた。

出し抜かれた形となったブルーノは、仏頂面でスープの中のパンをグサグサ。おかげで昼食の雰囲気は最悪なものとなった。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 101 [ヒナ田舎へ行く]

「ねぇ、ヒナ。どうもブルーノの様子がおかしいんだ」

しばらく頭を悩ませていたカイルは、居間のソファで丸くなり、目をしょぼしょぼさせているヒナに思い切って話しかけた。

ヒナはトロンとした目をやっとのことでカイルに向けると「どうもって?」と訊き返した。

「ん、だからさ、朝よりも不機嫌っていうかさ」不機嫌どころの騒ぎではなかった。あれはもう怒っていた。何にというか、誰にというか、おそらくスペンサーになのだろうけど、あそこまで感情を露わにしたブルーノを見たのはほとんど初めてだった。

「ダンもだったよ」ヒナがのろのろと言う。相当眠たいらしい。

「ふたり、喧嘩したのかな?」

「どうかな?ダンはキッチンに行ってないって」ヒナは目を閉じた。

「そうだった。お昼の支度してるときもダンは来なかったんだ。そういえば、ココアもいれてくれなかったね」非難がましく聞こえただろうか?「やっぱり朝のブルーノの態度がいけなかったのかも」カイルは慌てて付け加えた。

「ブルゥは悪くないよ」

「まあね。悪いのはスペンサーだもん。ブルーノをからかったりしちゃいけなかったんだ」もともとの言い出しっぺはヒナだったが、そこはすっぱり飛ばした。

「ヒナもそう思う」ヒナの頭がカクンと揺れる。もう限界みたいだ。

「でもなんでスペンサーはあんなこと言ったんだろうね」ヒナに訊いてもわかるはずないけど、カイルは訊ねずにはいられなかった。だって、ヒナが眠っちゃったら寂しいもん。

ヒナがぱちっと目を開けた。なにか閃いたのかも。

「カイルはヒミツまもれる?」ヒナは声を潜めた。

「えっ?秘密?そりゃぁ、守れるよ」だって僕たちは友達。でもこれは、恥ずかしいので口には出来なかった。

ヒナが四つの指をくいくいと曲げて手招きをする。カイルは座っていた椅子から飛び降り、秘密を聞くため、ヒナがまどろむソファの肘掛けの部分に手を着いて顎を乗せた。

準備はオッケイ!

「ヒナはさ、今日ウォーターさんに会いたかったんだ」ヒナはカイルの耳に息を吹きかけるように囁いた。

えっ?何の話?

「そ、そうだね。僕もウェインさんに会いたかった」これはホント。ヒナが今日も絶対にウォーターさんは来るって言うから楽しみにしてたのに、当てが外れた。おかげで二人で居間でゴロゴロする羽目になった。

「カイルはウェイン好き?」

「もちろんだよ。ウェインさんは師匠なんだから」まだ何も教わっていないけれど、カイルはウェインをすでに師と仰いでいる。

「ヒナはウォーターさん好き。会いたい」

ヒナの切ない告白に、カイルはドキリとした。秘密にするような会話じゃないと思ったが、やっぱり秘密にしたほうがいいみたい。

「じゃあさ、こっそり会いに行く?」

スペンサーはいないし、ブルーノは午後はお屋敷の修繕をすると言っていた。雨漏りが結構すごいのだ。しかもダンもいない。

「でも、ここから出ちゃダメなんでしょ?」ヒナは唇を尖らせ、イジイジと指先で太ももをいじくりまわした。外出禁止令さえなければ万事うまくいくのに、とでも言いたげだ。

「だから、こっそりなんだよ。雨だから時間は掛かるけど、裏の道を通ればダヴェンポートさんちまでは三〇分もかからないはず」ひとりだったら二〇分で行ける自信があるけど、それは言わなかった。

「ウォーターさんちだよ」ヒナが訂正する。

「あ、そうか」うっかりしてた。「で、どうする?ヒナがいく気なら、いろいろ準備するけど?」行かないなら、これから何をするか考えなきゃ。

「行くっ!行く行くっ!」

ヒナはすっかり目覚めたようだ。あんなにショボショボしてた目がまんまるになっている。

「よしっ!それじゃあ、準備するぞ。まずは着替えだ。ちょっとくらい濡れてもいいのにしなきゃ」

「了解しましたっ!!」ヒナはそう言うと、勢いよく部屋を飛び出して行った。脱いでいた靴を置いたまま。

カイルはやれやれと、その靴をソファの下に押し込んだ。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 102 [ヒナ田舎へ行く]

ブルーノは屋根裏の物置にいた。

雨漏りする箇所を確認していてたどり着いたのだ。

最近ここに誰か入ったようだ。衣装箱の蓋がきちんと閉じられていないし、棚のものがちょっとずつ右に寄っている。

どうせカイルだろうと、ブルーノは衣装箱を開けた。

くしゃくしゃに丸められた古着が押し込んである。当然ブルーノはそれを手に取った。ちゃんと蓋が閉まるように、畳んで仕舞わなければならないから。

だがすぐに、それを手に取ったことを後悔した。

あるはずのないトビーのシャツだ。とうの昔に捨てたはずなのに、どうしてここに?

もしかすると、これもスペンサー流の嫌がらせのひとつなのかもしれない。

ダンのことで散々からかい、過去の出来事をほじくり返し、あげく、わざわざこれを、おれの目につくようにしておくなどスペンサー以外誰がすると言うのだ。

ブルーノはボロ布を衣装箱に押し込むと、体重をかけて強引に蓋を閉めた。

捨てたってよかった。けど、これを持ってうろつく姿を万一見られでもしたら妙な誤解を生みかねない。目障りなスペンサーは外出中だが、カイルはいちいちスペンサーに報告せずにはいられない性分だ。

朝食での一件でダンに避けられているというのに、これ以上のごたごたは御免こうむりたい。

物置部屋を出て施錠すると、午後のすべての仕事を投げ出そうと心に固く誓いながら狭い階段を下った。雨が降っているとはいえ、スペンサーは役得を得た。それはダンの意思によるものだったが、ある種の作為のようなものを感じずにはいられなかった。

「よしっ!今のうちに行くよ」

カイルの囁き声が聞こえたかと思うと、ヒナと二人妙な格好で目の前を横切って行った。ブルーノは思わず追った。二人は廊下の端をこそこそと進み、どうやら裏口に向かっているようだ。

こんな雨の中、外で遊ぶ気か?

いや。待てッ!あいつらどこかへ行く気だ。おそらくはウォーターズ邸あたり。

気が立っていることもあり、スペンサーへの仕返しのひとつとして見逃してやりたいという気持ちがなくもなかった。だが、さすがにヒナが敷地の外に出ることを許すわけにはいかない。ルール違反だし、この雨で風邪でも引いたら、ダンに何を言われるか分かったものじゃない。

「おい、お前たち!」ブルーノは声を張り上げた。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 103 [ヒナ田舎へ行く]

「ひゃんっ!」

ヒナはびっくりして飛び上がった。奇妙な声が出たのは、同じように驚いたカイルが抱きついてきたから。

「どこへ行くつもりだ?」ブルーノが吠えながら近づいてくる。ちょっぴり大好きなジャスティンと重なり、ヒナはドキリとした。髪の色だって、声だって全然違うのに、なんでも正直に話してしまいそう。

カイルはぶるぶる震えている。ヒナを見て小さく首を振った。

ヒナに任せたって事?カイルってあんがい弱虫。でもヒナだって、怒ったブルゥはこわい。

もたもたしている間に、ブルーノが背後に立った。背中の毛がぞわぞわした。

「二人してどこへ行くのかと聞いている」

「散歩です!」カイルがくっついているので顔だけしか振り向けなかったが、ヒナは快活に答えた。嘘ではないので、後ろめたさはない。

「散歩?この雨の中?」

「傘、あります」ヒナは左手に持ったこうもり傘を掲げた。

「そういう問題じゃないだろう?誰の許可を得て、外に出ようって言うんだ?ヒナは勝手にここから出てはダメだと言わなかったか?」ブルーノはヒナの頭に載るお出掛け帽子を睨みつけた。

ヒィ!全部ばれてる。

「言った……」ヒナはすっかりしょげかえった。これでジャスティンには会えなくなった。

「僕が誘ったんだ!だから、ヒナは悪くないんだ」カイルが盾にしていたヒナのわきから飛び出した。解放されたヒナが今度は後ろに回る。

「どこへ誘ったって?」ブルーノの眉がつり上がった。

カイルは途端に怖気づいた。これでは埒が明かないと、ヒナはカイルをはじき飛ばした。

「ふとっちょを探しに行くところ」

とはいえ、たいした嘘は吐けない。

「ふとっちょはこんな雨の中、庭をうろついてはいないぞ」ブルーノがぴしゃり。

「でも、どこかで雨宿りしてるでしょ?」ヒナはブルーノに詰め寄った。すりすりと甘える子猫のようだ。

ブルーノはヒナの頭から帽子を取ると、屈んでまっすぐに顔を見据えた。「たいていは厩舎か温室にいる。一緒に行くか?」

ヒナの嘘も限界だ。

「大丈夫っ!」カイルが焦って言う。

「いや、どうせおれも暇だ。一緒に行こう」ブルーノは更にヒナの手から傘を奪った。

ヒナは降参した。ふとっちょを探しに行くのも楽しそうだけれど、ジャスティンに会えないのならお昼寝を我慢する意味がない。

「戻ってお昼寝する」とぼとぼと退散した。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 104 [ヒナ田舎へ行く]

背中を丸めて遠ざかっていくヒナを見ていると、自分が極悪人のような気がしてきた。

ヒナはおれの味方なのに、おれはヒナの味方をしてやれない。

ブルーノはいつになく気落ちした。

「ヒナをそそのかしたのか?」ブルーノは静かな口調で問いただした。ヒナを黙って見過ごしておいて、カイルだけ怒るわけにはいかない。

けれどカイルは、怒られたとき特有のいじけた顔でぼそぼそと言い訳を始めた。

「そそのかしてなんかないよ。ただ……ヒナが寂しそうだったから、元気づけようとしただけ。ちょっと外で遊ぶくらいいいでしょう」

「ちょっと遊ぶくらい?隣へ行こうとしていただろうが!」ブルーノは怒鳴った。

スペンサーが外出中のいま、責任はすべてこのおれに降りかかってくるというのに、何をのんきなことを。

ぬかるんだ道をヒナの足で歩いて、いったいどれほど時間が掛かると?もしも二人が誰にも見咎められずに出掛けていたら?そして転んで怪我でもしていたら?考えるだに恐ろしい。

「だったらブルーノはヒナが元気なくてもいいの?」カイルが反撃してきた。きゅっと唇を結び、いい解決策があるなら教えてよとこちらを睨みつける。

生意気になったものだ。だがまあ、カイルの言い分にも一理ある。ヒナが元気がないならどうにかしなければ。

「どうして元気がないのか知っているのか?」ブルーノは穏やかに訊ねた。カイルはまだまだ子供で、あまりきつく言っては面倒が増えるだけだ。

「手紙の返事を待ってるんだ」

「朝出したばかりだろう?」ブルーノは呆れて天を仰いだ。

「そうだけど、ヒナはウォーターズさんが今日も来るって思ってたから、来ないって分かってすごく落ち込んじゃってさ……」カイルはありもしない小石を蹴る真似をした。

どうやら、落ち込んでいるのはヒナだけではないようだ。

「そうそう毎日訊ねて来られるはずないだろう?向こうだって、なんの用かは知らないが、何か用があってここへ来ているんだ」

「仕事のお休みで来てるんだから、暇に決まってるよ」カイルは決めつけた。

まったく。子供というのは自分の都合のいいようにしかものを考えられないのか?

「そうだとしても、暇を満喫するためにここへ来ているのかもしれないだろう」

「こんなとこで暇の満喫なんて、一日で終わっちゃうよっ!」カイルは言い捨て、逃げ去った。

取り残されたブルーノは、問題の解決の為、午後の時間すべてを使うことに決めた。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 105 [ヒナ田舎へ行く]

<キャリーの店>は何でも揃う雑貨店。

ダンは不機嫌なヒナのために何かいいものがないかと、奥行きのある店内をうろついていた。まず目を付けたのは壁面を覆う棚の上段にある双眼鏡。天候が回復すれば、野山をあちこち移動する。その時に双眼鏡でもあれば、ヒナも退屈しないだろうと考えたのだが、かなり値が張りそうなので、すでに一〇分ほど悩んでいる。

スペンサーはカイルのためにペンとノートを選び、その他不足する日用品をあれこれ選んで、いまは店の女主人キャリーとなにやら話し込んでいる。キャリーは小柄な中年女性で、魚のような顔をしている。

「おや?」

静かでそれでいて驚きに満ちた声に、ダンは何のために使うのか分からない細長い棒を手に振り返った。

黒い外套をまとったロシターが、包みを抱え店の奥から出て来たところだった。包みにはリボンが掛けられていた。

「ここでお会いするとは思いませんでした」ロシターは出来得る限りで礼儀正しく会釈をすると、ダンの手の中の棒を訝しげに見やった。

ダンはすぐさま、棒を元あった場所に戻し、ふいに隣人の使用人と出先で会った時の態度で応じた。

「こんにちは。御使いですか?」

「ええ」ロシターは短く答えた。口元がうっすらとほころぶ。「そちらもですか?」

「僕は付き添いみたいなものです」そう言って、カウンターに寄り掛かるスペンサーに目をやる。

ロシターは視線をさっと走らせた。「彼と一緒でしたか。では、ヒナはお留守番をしているのですね」

「今頃は昼寝の最中でしょう」僕がお屋敷を出るとき、ヒナは居間でうつらうつらしていた。何か欲しいものはありますかと聞いたが、無言だった。ヒナの欲しいものはダンにどうすることの出来ないものだ。

ああ、それで思い出した。

「旦那様は手紙を受け取られましたか?」ダンは声をひそめた。

「ええ、非常に喜んでおられました」

「返事は、まだですよね?今日はもう、うちへくる予定なんかはなかったりしますよね?」

「実はそのことで朝から大変でした。旦那様は雨の中すぐにでも返事を届けんばかりで、ウェインとわたくしとでお止めいたしました」ロシターは嘆かわしげに首を振った。

「どうしてっ!」ヒナはすごく会いたがっていたのに。

ロシターは言うまでもないとばかりに、小さく溜息を吐いた。「迷惑な隣人になってもらっては困るからです。それはヒナにとってもよくはないでしょう?ですから、節度ある振る舞いをとお願い致しました」

うーむ。確かにロシターの言うとおりだ。昨日のあの調子が続けば、旦那様がやっかいな隣人になる日もそう遠くはない。やれやれ。出来る使用人というのは、主人にノーと言えるわけだ。

ノーと言えない僕はバカみたいだ。「では、ヒナにもそう伝えておきます。とても会いたがっていましたから」

「そうしてください。それから、きっと明日には返事が届きます」ロシターはお先にと言って、店を後にした。

ダンは迷っていた双眼鏡を手にカウンターに向かった。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 106 [ヒナ田舎へ行く]

なぜヒナの機嫌を取らなければならない?

いや、もう、いまさらというもの。愚痴めいたことを考えても始まらない。

むしろ、さっさと用を済ませて帰るべきだ。順調にいけば、子供たちがふて寝から目覚める頃には戻れるだろう。

ウォーターズ邸へ向かうブルーノは、ぬかるみを避けて草地に入った。雨は今にもやみそうだ。自転車で出掛けて正解だった。

いやいや、向こうに着くまで何が正解かはわからない。門前払いを食らうかもしれないし、会ったとしてもヒナたちが期待しているような歓迎を受ける――『ああ、手紙の返事ですか?いま届けるところでした』みたいな返事を貰える――とは限らない。

まったく。何を期待してこうして自転車を走らせているのか。ヒナが不機嫌なのは手紙の返事がないかららしいが、ではダンはいったい何が原因で不機嫌なのだ?スペンサーと雨のなか買い物だと?いったいいつ出入り自由だと言った?スペンサーもスペンサーだ。ダンに立場をわきまえさせるどころか、にやけた面でいそいそと出掛けて行きやがって。

ああっ!くそ!

スペンサーに指摘されてからというもの、ダンのことが頭から離れない。頭を動かさなくてもいいように脚を動かしているというのに、まったく効果なしだ。

そして、ものの一〇分でウォーターズ邸に到着した。

裏木戸をノックしてしばらく待っていると、ロシターと似たり寄ったりの気取った男が顔を覗かせた。

やれやれ。話が通じればいいが。

「どちらさまですか?」愛想は良かった。

ブルーノは気を取り直した。「ラドフォード館から参りました、ブルーノ・ロスと言います。ウォーターズさんにお目に掛かりたいのですが」

「ああ、お隣の方ですか」そう言って男は値踏みするような目をブルーノに向けた。「申し訳ありませんが、旦那様にお会いするのは難しいかと……」

早速断られた。「とても重要な用件なんです。なんとかなりませんか?」ブルーノは自尊心を投げ捨てた。

「はぁ……。いちおうウェインさんに――ああ、ウェインさんは旦那様の近侍をされている方で、え?知っている?では、伝えてきますので、こちらでお待ちください」

バタン!とドアは閉まった。

中で待たせてはもらえないということか。

外は雨だというのに。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 107 [ヒナ田舎へ行く]

「ウェインさん。ちょうどいいところに」

ちょうどいいところに出くわすのが、いたって普通のウェインのいいところである。

「なんですか」ウェインは警戒しながら訊ねた。お茶をいただこうと休憩室へ行くところだ。面倒を押しつけられるのは困る。

しかもこの男デニス・アレンは、ジェームズが見つけてきた中では一番のできそこないだ。恰好だけはあの偉そうなロシターを真似てはいるが、状況判断力が著しく欠如している。

「旦那様に会いたいって人が勝手口に来てます。どうしますか?」

ほら、見ろ。早速面倒を持ち込んだ。僕が朝からのごたごたで心底疲労しているのがわからないらしい。

「どうもこうも、誰だか知らないけど、いまは誰も旦那様に会えやしないよ。血を見るのがおちだ」

それもこれもロシターのせいだ。旦那様をわざわざ不機嫌にさせるなんて、ロシターのやつめ。成り行きで僕も旦那様を不機嫌にさせることに荷担したわけだけど、本当はそんなことしたくなかった。旦那様とヒナを会わせないようにするなんて、側仕えのこっちのことも考えて欲しいものだ。

「そうですよね……そう言ったんですけど、重要な用件だからとお隣さんが」

「お隣!」声がひっくり返った。隣と言うことはヒナじゃないのか?いやいや、ヒナは外出禁止だ。ということはダン?まさかっ!ヒナに何かあったのか?「バカバカッ!それを早く言えよ。隣って言えば、ヒナがいるってことを忘れるな。その誰だか知らないお隣さんはどこにいる?」

「あ、ああ、そうでした。お坊ちゃまがいらっしゃるんでした。ブルーノ・ロスさんは外でお待ちです」アレンはさらに爆弾を落とした。

ブルーノ・ロスだと?彼を外で待たせるなど正気の沙汰とは思えない。

「お坊ちゃまと気安く言うな。お隣さんに聞かれでもしたら関係がばれるだろう!」ウェインは恐慌状態で捲し立てた。次に自分がラドフォード館を訪問した際、どのような歓迎を受けるのかと思うとぞっとせずにはいられない。「とにかく、ブルーノさんのためにタオルを持って来るんだ」

ウェインは走った。横目で休憩室を名残惜しげに見送りつつ。

ドアの向こうには濡れそぼるブルーノが立っていたが、焦って余計なことを口にしてはいけない。

「どうぞ中にお入りください。それで、旦那様にどのような用で?」

「用というほどのものではないが、ヒナのことでちょっと」

ヒナの!

「旦那様はすぐにお会いになると思います。けれど、ひとまず水気を拭って下さい。アレン!タオルはまだか」ウェインはこの屋敷に来て初めての大きな声を出した。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 108 [ヒナ田舎へ行く]

外套をロシターもどきに預け、タオル片手に廊下を進むブルーノは、しかつめらしくピンと伸びたウェインの背中を見ながら思った。

ウェインの間の抜けた感じがどこかダンと重なる。

見た目はすずめと極楽鳥ほどの違いがあるものの、全体的な雰囲気――働きぶりと言おうか、纏う空気と言おうか――がよく似ている。

見た目はともかく、ウェインは話の分かる男のようだ。おかげですぐにでもウォーターズと面会できることになった。

「すぐに降りてくると思います。こちらでお待ちください」ウェインはそう言って、かけ足で去っていった。

案内された部屋は、大きな窓がひとつだけある小さな部屋だった。ブルーノは以前に何度かここを訪れたことがあったが、ダヴェンポートがいたころの名残はなかった。

壁紙は新しく張り替えられていて、調度品も高価で趣味のよいものに新調されている。ひとまず、さすがは金持ち、とでも評価しておくか。

ブルーノは金の蔦模様が施されたクリーム色のソファに浅く腰掛けた。おそらく最低でも十五分は待たされるだろう。ことによっては、二十分。いや三十分か。

さて、ウォーターズになんと言おうか。手紙の返事を寄越さないからと勢いでここまで来たが、自分がかなりの礼儀知らずなのは否定できない。

「手紙の返事をヒナに書いてやってください?」ブルーノは声に出してみた。

こんな馬鹿馬鹿しいことを口に出来るか。まったく。

「返事は書いてある」

突如戸口から声が聞こえ、ブルーノはぎょっとして立ち上がった。独り言を聞かれた恥ずかしさからか、顔が熱い。こんなに早くウォーターズがやって来るとは予想外だった。部屋でくつろいでいたのか、シャツの前は肌蹴たままだった。

「す、すみません、突然お伺いして――」ブルーノはいつになく、しどろもどろだった。

「いや、別にいい。用件はそれか?それとも、あの子に何かあったのか?」静かで落ち着いた口調だったが、どことなしか緊迫した雰囲気があった。

ウォーターズはブルーノに座るように促し、その向かいに着席した。

ブルーノは圧倒的な存在感を示すウォーターズを前に、力なく腰を落とした。おれはとんでもない間違いを犯したのかもしれない。ウォーターズはおれが相手に出来るような男ではない。悔しいが、この男の相手をできるのはスペンサー、とヒナだ。

ヒナはいったいどうやってこの男に取り入ったのだろう。

「ヒナに何かあったのかと聞いている」ウォーターズの声が怒気を帯びた。かなり短気な性格のようだ。

「いいえ。いえ、はい」ああっ、もう。何を言っているんだか。「ヒナに何かあったわけではありません。ただ、ウォーターズさんからの手紙の返事をずっと待っているようで……」

「不機嫌で手に負えないのか?」ウォーターズがズバリ訊ねた。

ブルーノは、不思議とヒナのことを知り尽くしているウォーターズを、尊敬の入り混じった驚きの目で見た。

「驚く事はない。子供というのはそういうものだ」

「お子さんがいらっしゃるのですか?」だからヒナの扱いがうまいのか?

「いや。甥っ子だ」ウォーターズの顔がほころぶ。「それで?約束のさくさくほろほろのクッキーを持って来ないと怒っているのか?」

当たらずとも遠からずだ。この際、ウォーターズにすべてをぶちまけてみるか。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 109 [ヒナ田舎へ行く]

よく知りもしない隣人を頼ってくるとは、よほど困っているらしい。

だが、それもヒナを案じているからこそ。

ジャスティンはブルーノに対する評価を必然的に上げた。

「手紙は朝出したばかりだと言ったんですけど、ヒナはすぐに返事が来ると思っていて――」

「すぐ隣に住んでいるから、そう思ってもおかしくはないな。それで?返事を取りに来たというわけか」

昨日は敵地に乗り込んでいたのでおとなしくしていたが、ここは自分の城だ。好きなだけ偉ぶっていられる。しかも向こうはこちらに助けを求めているのだ。

「まあ、そのようなところです。そうしないとカイルと二人、無茶をするところでした」

ブルーノはこちらの気を惹く術を心得ているようだ。

「無茶?」どんな無茶をしようとしたのか訊ねずにはいられなかった。

「あなたに会うため、雨の中こっそり出掛けようとしていました。気付いてよかったですよ。雨で道がぬかるんでいたので、ここに辿り着くのにどれほど時間が掛かったことか」ブルーノは事が大袈裟にならなかったことへの安堵からか、かすれた苦笑を漏らした。

ジャスティンは感激で胸を熱くした。ああ、なんて子だ。いつだって突拍子もない行動でこちらを驚かせる。これでヒナに夢中になるなという方が無茶というものだ。

だが、正直なところ、ヒナには二度とそんな事はして欲しくない。約束を破れば、ヒナは両親に会えなくなる。そんなことになっては、お互い覚悟してまでここへやって来た意味がなくなってしまう。

「子供というのは、目を離すと何をするのか分かったものじゃない」ジャスティンは困ったものだというように首を振った。

「本当に。気の休まる時がありません」ブルーノは心から言った。

間もなくして、ウェインがコーヒーを運んできた。

「ブルーノさん、カイルに返事を渡してもらえますか?」給仕が済むとウェインは手紙を懐から取り出した。

「ええ、もちろんです。とても喜ぶと思います。それから、ブルーノで結構です」ブルーノは手紙を受け取った。

「では、僕のこともウェインと気軽に呼んでください。あ、旦那様のもお持ちしましょうか?それとも明日、直接渡しますか?」ウェインは持ち前の図々しさを発揮して、勝手に明日の予定を口にした。

くそっ!ウェインのやつ。こっちが優位に立つための話運びが台無しになるではないか。

「明日、訪問する許可をもらえればな」ジャスティンは言って、ウェインを睨みつけた。

「ああ、そっか。カイルが言っていましたけど、ヒナは色々忙しいんですってね、ブルーノさ――ブルーノ」

「ええ、まあ」ブルーノは口を濁した。どうやらあまり触れて欲しくないようだ。

「一日中というほどではないのだろう?出来れば明日、手紙の返事を持って行きたいが――それから、約束のクッキーも持参するつもりだ」

今渡してもいいが、それでは明日訪問する口実がなくなってしまう。ヒナはカイルだけ返事をもらって拗ねるだろうが、かえってそれでいいのかもしれない。ヒナの機嫌がさらに悪くなれば、俺の――ウォーターズの存在がありがたがられるというものだ。

「おそらく午前中は空いていると思います。明日も雨なら、午後も」ブルーノは渋る様子を見せたが、ウォーターズを拒みはしなかった。

これで完全にヒナと隣人との関係は切り離せなくなった。

ジャスティンは了解にしるしに頷き、微笑んだ。

つづく


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